初秋の午後、打ち合わせが終わったあとのオフィスは、いつも少しだけ静かになる。クライアントが帰り、ホワイトボードに残った言葉たちが、まだ空気の中に漂っているような時間。Grid Meshのプロジェクトは、その沈黙のなかに最初の問いを置くことから始まる。提案書でも、ロードマップでもなく、「問いの設計書」と呼ばれる一枚の文書が、すべての仕事の起点に置かれる。なぜ問いを先に設計するのか。その構造はどうなっているのか。実際のプロジェクトの流れに沿って、丁寧に語ってみたい。

「問いの設計書」が生まれた背景

Grid Meshが問いの設計書を使い始めたのは、ある製造業クライアントとのプロジェクトで、提案書を三度作り直したことがきっかけだった。問題が変わったのではない。問題の捉え方が、最初から間違っていたのだ。クライアントは「売上が落ちている」と言った。Grid Meshは当初、マーケティング施策の提案を準備した。しかし深く話を聞くうちに、本当の問いは「なぜ既存顧客が二年目以降に離れるのか」であることがわかった。問いが変われば、提案の中身はまったく別のものになる。その経験以来、Grid Meshはどんなプロジェクトでも、提案書の前に問いを設計する工程を置くようになった。

問いの設計書の構造:三つの層

問いの設計書は、三つの層で構成される。第一層は「表層の問い」で、クライアントが最初に口にする言葉をそのまま記す。「売上を上げたい」「組織をまとめたい」といった、まだ輪郭の曖昧な要望がここに入る。第二層は「構造の問い」で、表層の問いを分解して生まれる、より具体的な問いの群れだ。「どのセグメントで、どの時期に、何が起きているのか」という問いが、ここに並ぶ。第三層は「本質の問い」で、すべての問いを貫く一本の軸となる問いを、できる限りシンプルな一文で書く。この三層構造は、A4一枚に収まるように設計されている。長くなるほど、問いが発散している証拠だとGrid Meshは考えている。

提案書より先に作る理由

提案書は、答えを提示する文書だ。だが答えの質は、問いの質に依存する。問いが浅ければ、どれほど精緻な提案書を作っても、それは的外れな答えになりうる。冬の朝、締め切りに追われながら作った提案書が、クライアントの反応を得られなかった経験は、多くのコンサルタントが持っているはずだ。Grid Meshが問いの設計書を先に置く理由は、クライアントとの「問いの合意」を取るためでもある。設計書を共有し、「私たちはこの問いに答えようとしています」と確認することで、プロジェクトの途中で方向が変わることが大幅に減る。提案書は、合意した問いへの回答として書かれるため、議論が噛み合いやすくなる。

実際の使用例:小売業のリブランディングプロジェクト

関西に本社を置く小売業のクライアントから、ブランドの刷新について相談があったプロジェクトを例に挙げる。最初の会議でクライアントが持ってきた問いは「ブランドイメージを若返らせたい」というものだった。Grid Meshはその場で提案書の作成に入るのではなく、二週間をかけて問いの設計書を作成した。店頭での観察、スタッフへのインタビュー、販売データの確認を経て、第三層の本質の問いは「なぜ三十代の顧客は、最初の購入以降も店に来るのに、ブランドとの関係を感じていないのか」に絞られた。この問いを共有したとき、クライアントの担当者は「これは私たちが言語化できていなかったことだ」と言った。提案書はこの問いへの回答として書かれ、承認は一度の会議で得られた。

問いを設計することの難しさ

問いの設計は、簡単ではない。最も難しいのは、表層の問いを深掘りする過程でクライアントの「思い込み」に触れる瞬間だ。「売上が落ちている原因は競合にある」と信じているクライアントに、「内部の顧客対応に問題があるかもしれない」という問いを提示することは、関係性の繊細さを要求する。Grid Meshでは、問いの設計書を「仮説の提示」ではなく「問いの共有」として位置づけることで、この緊張を和らげている。答えを持ち込むのではなく、一緒に問いを立てているという姿勢が、場の空気を変える。問いの設計書の最後には必ず「この問いはまだ変わりうる」という一文を置くのも、その理由からだ。

問いの設計書が変えるプロジェクトの時間感覚

問いの設計書を置くことで、プロジェクト全体の時間の流れが変わる。最初の二週間は、何も「作っていない」ように見える。それがクライアントにとっては不安に映ることもある。しかし問いが定まった後の仕事は、驚くほど速く進む。Grid Meshのあるプロジェクトでは、問いの設計に十二日間を使い、その後の提案から合意までを五日間で終えた。従来の進め方と比較して、全体のプロセスは短くなったにもかかわらず、関係者全員が「よく理解した上で進んでいる」という感覚を持っていた。仕事の速さは、着手の速さではなく、問いの精度から生まれる。そのことを、問いの設計書は静かに証明している。

問いの設計書は、格好のいい成果物ではない。A4一枚、三つの層、それだけだ。しかしその一枚が、プロジェクトの奥行きを決める。Grid Meshはこれからも、答えを急ぐ前に、問いの前に立ち止まる時間を、仕事の中心に置き続ける。